ミハイルの手記

※これはNexusにて公開中のフォロワー【Rabi】に関連したキャラクターの設定となっています



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172年 恵雨の月 8日
 
今でも信じられない…。
今日は僕の14度目の誕生日だった。
朝食を食べ終わり、庭にある噴水に腰掛けていた僕の元へ父上がやってきた。

「大切な話がある。私と一緒に書斎に来なさい。」

父上はそう告げると、急かすように僕に視線を送った。
なにか悪いことでもあったのだろうか?
僕は急いで立ち上がると、父上の後をついて行った。


僕が書斎に入ったことを確認すると、父上は扉に鍵をかけた。
書斎は小さなロウソクの灯だけがゆらゆらと揺れていた。
そこで、父上は僕にある真実を伝えた。

”僕の一族は古くから帝国に使える暗殺者の家系だったこと”
”その見返りとして、エッテン家が貴族の地位を手に入れたこと”
”父上も帝国からの指令を受けて暗殺を行っていること”

そして…

”家名を継ぐ者が14になった時から暗殺者として育てること”

僕は貴族ではなかった。
金の為に命を奪う暗殺者だったのだ。

僕のミハイル・ヴァン・エッテンという名前にもはや意味など無い。

全てはまやかしだったのだ。

この金の刺繍が入ったシャツも、朝食に食べたパンも。
誰かの死で買ったものなんだ。


僕は暗殺者に…人殺しにはなりたくない。















172年 栽培の月 2日

手の震えが止まらない。
これを書いている今もあの時の光景が頭から離れないんだ。

今日、僕は初めて人を殺した。
相手は父上が連れてきたルドルフという名の罪人だった。

彼は後ろ手に縛られ、父上が「作業場」と呼んでいる部屋の中心に座っていた。
猿轡を付けられた彼は暴れる様子も無く、僕のことをじっと見つめている。
父上は片手で持てるような短刀を僕に手渡した。

鈍く光るその刃を見て僕の気持ちは少しだけ高揚していた(愚かなことだ)

「さぁ、やるんだ。」

父上が静かな口調で言った。
僕はその短刀をルドルフの首筋に当てた。

彼は臆することもなく、ただ僕の目をじっと見ていた。

僕は短刀を握る手に力を込め、そのままゆっくりと彼の首に刃を突きたてていった。
途端に傷口から真っ赤な血が噴出し、僕の手や顔を赤に染めていった。

僕は左手で彼の後頭部を掴み、さらに刃を奥へと突き刺した。

ふとルドルフの顔に目をやると、その顔は恐怖と苦痛に歪んでいた。
僕はルドルフの目から輝きが消えるまでじっとその光景を見つめていた。


全てが終わった後、父上が僕から短刀を取り上げ、顔に付いた彼の血を拭ってくれた。

「これでお前もエッテン家の一員だ。」

彼の亡骸を見つめていた僕に、父上はそう言った。
そうだ。これで僕も立派な人殺しだ。



怖い。



手の震えが止まらない。

それは人を殺したからじゃない。

僕が”殺人”を楽しんでいたからだ。

彼の目から光が消える瞬間が忘れられない。

もう一度、あの光景を見てみたい。




僕は怪物だ。















175年 真央の月 17日

今日、父上が一人の女性を連れてきた。
彼女の名前はシャロン。
フレーヌ家の一人娘らしい。

「ミハイル。彼女がお前の妻だ。」

父上は淡々とした口調で私に言った。
そうか。私は自分の人生を選ぶことすら出来ないんだったな。

あれから3年。
父上と共に数え切れない命を奪ってきた。

私も最初は”命を奪う行為”について特別な感情を抱いていた。

だが、今は違う。

なんの感情も湧くことは無い。私にとってその行為はもはや特別なものでは無くなっていた。

人を殺し、眠りにつき、そしてまた殺す。
それが私の日常だった。

人並みの幸せなど求めてはいなかったし、求めてはいけなかった。
暗殺者である私に平穏などやってくるはずが無いのだから。


私は目の前に居る女性を見つめながら、彼女のことを憂いていた。
フレーヌ家といえば優れた帝都兵を数多く輩出する名家だったはずだ。

そんな一族と婚姻関係になるだなんて、なんとも皮肉な話じゃないか。
きっとこれも最初から決められていたことなんだろう。


ならば私は…。

















176年 南中の月 21日


今朝、父上の訃報が届いた。
父上はスカイリムで起きたある事件の首謀者を暗殺するはずだった。
しかし、その人物に接触する前になんらかの理由で命を落としたらしい。

私はその手紙を破き、暖炉の中に投げ捨てた。

そうか、父上が死んだのか。
私の中に安堵と落胆の気持ちが渦巻いていた。

その時、書斎にシャルが入ってきた。
私の表情を察したのか、妻は何も聞かずに私の隣に寄り添った。

しばしの沈黙の後、私は彼女に父上の訃報を知らせた。

彼女は少し悲しげな表情を見せた後、何も言わずに私を抱きしめてくれた。

シャルと暮らしてもう1年になる。
彼女は私のこと(仕事も含めて)をよく理解してくれるし、私が辛いときには常に寄り添ってくれる。

私のこの人生も、彼女に出会えたことで随分救われた気がするんだ。














183年 暁星の月 9日

私は今日、父親になった。
シャルが寝室で産気付いて数時間後。

大きな産声が屋敷中に響き渡った。
私は寝室の扉を開け、シャルの元へと駆け寄った。

彼女は生まれたばかりの赤ん坊を抱きしめながら、私に微笑んでいた。
シャルから赤ん坊を手渡され、私は慣れない手つきで抱きかかえた。

「女の子よ、あなた。」

シャルは嬉しそうにそう言った。

そうか、女の子か…。

この子には私のような血に塗れた道を歩んでほしくは無い。
願わくば、暖かい家庭を築いて欲しい。

「名前は決めたの?」

シャルの言葉に私は頷いた。

「ラビリス。ラビリス・シャルル・エッテンだ。」

私は以前から考えておいた名前を妻に伝えた。

「素敵な名前ね。」

シャルはそう言って私に微笑んでくれた。















188年 薄明の月 6日

任務を終えて屋敷に帰ってくると、玄関でラビが眠っていた。
どうやら、私が帰って来るのをずっと待っていたらしい。

私が声をかけると、眠たそうに目を擦りながら「パパ、おかえりなさい。」と言ってくれた。
そっと彼女を抱きかかえようとしたが、すんでのところで踏みとどまった。

私は今しがた、命乞いをする二人の男を殺してきたのだ。
彼らの血に塗れたこの両手で、娘を抱きしめることはできなかった。

「早く寝なさい。」

私はそう言うと足早に書斎へと向かった。
彼女が寂しそうに私のことを見ていたが仕方なかった。

私は怪物だ。
血に塗れた人殺しだ。

でも、娘は違う。
ラビには普通の女の子として生きていって欲しい。
その為には私のような男など必要ないのだ。

あの子と一緒に居ると急に恐怖に襲われるときがある。

ラビを失いたくない。
妻と同じように彼女を愛している。

ラビが14歳になったとしても、彼女を暗殺者にするわけにはいかない。

なんとかしなくては…。

















196年 収穫の月 11日

今日も叔父上から手紙が来た。

書面には、

”数ヶ月でラビの14度目の誕生日が訪れる。
 エッテン家の慣わしとして、彼女に最初の儀式を受けさせろ。”

と記されていた。

ふざけるな。

あの子にそんな真似はさせない。
たとえ、一族全てを敵に回したとしてもラビは私が守る。


必ず。
















196年 収穫の月 30日

私は荷物を纏めると、玄関に止めてある馬車に運び込んだ。
妻とラビも心配そうに私を見つめていた。

しかし、やらなくてはならない。

私の愛する家族を守る為に。

妻に別れのキスをした後、彼女の後ろに隠れているラビを抱きしめた。

「長い旅になる。」

二人にそう告げると私は馬車に乗り込み、屋敷を後にした。


これを書いている今も胸が張り裂けそうだ。
愛する家族と離れ離れになることがこんなに辛いものだとは。


あの大戦で、エッテン家の人間の多くが命を落とした。
もう家名を継ぐ人間はラビしか残っていない。

彼らも後が無いのだろう。

先日、私の一族は私から愛する娘を奪うと脅してきたのだ。


やるしかない。

今、叔父上の居る城に向けて馬車を走らせている。


私はこれから…エッテン家を滅ぼすのだ。
















196年 黄昏の月 1日

どうしてこうなってしまったんだろう。
私は今、とある廃屋に身を隠している。



1週間前。
私は叔父上を含めた全てのエッテン家の生き残りを殺した。
逃げ惑う彼らに私は死という慈悲を与えてやった。

叔父上の寝室で息を整えていたとき、何かの物音を聞いた。

辺りを見回してみると、本棚の裏に隠し扉があることに気づいた。

そのまますぐに立ち去れば良かったのに。
なぜ、その扉を開けてしまったんだろう。

隠し扉の先は薄暗い部屋になっていた。
部屋の中はなんとも言いがたい悪臭に満ちている。

私は寝室に置いてあった燭台を持ってくると、それに火を灯した。

ロウソクの火が室内を照らしていく。

すると、部屋の壁に人影が見えた。
私は剣を鞘から抜き、ゆっくりとその人影に近づいていった。

そこには一人の少女が繋がれていた。
首に鎖が巻かれ、服の体を成していないボロ切れを身に着けた褐色の少女だった。

私はその少女と目が合った。

似ている。

それは最初に殺したルドルフと同じ”死を受け入れた者の目”だった。

私は剣を鞘に納め、叔父上の寝室に戻って首輪の鍵を探した。
鍵は叔父上の机にある2番目の引き出しに乱雑に放置されていた。


私が首輪を外してやると、少女は不思議そうにこちらを見ていた。

人の好意に慣れていないのだろう。
彼女の風貌を見て、どれほど凄惨な仕打ちを受けてきたのかは想像に難くなかった。

私は彼女を連れて叔父上の城を後にした。
そのまま自分の屋敷へと戻ろうとしたのだが、少女は衰弱しきっていた。


しばらく馬車を進めていると、ある廃屋を発見した。

私は馬車を止めると、少女を抱え廃屋の中に入っていった。

人が住まなくなって久しいようだが、壁や屋根はその形を保っていた。

ここでなら夜の寒さも凌げるだろう。

ベッドに溜まった埃を払い、少女をそこに寝かせた。
どうやら疲れて眠ってしまったらしい。

この少女を見ているとラビを思い出す…。

私はこれからのことを考えながら、彼女の眠るベッドの横に腰掛けた。
















196年 黄昏の月 20日

私はまだ少女と共に廃屋に居る。
彼女の体調も自分で歩けるくらいには回復している。

私は少女にいくつかの質問をした。
彼女は驚くほど無口だったが、”スノウ”という名前だけは聞きだすことが出来た。

少しずつではあるが、彼女と打ち解けてきた気がする。
















196年 星霜の月 20日

スノウの体力も殆ど元通りになったようだし、いつまでもここには居られない。
しかし、心残りがある。

このまま彼女を置いていっても良いのだろうか。
体力が戻ったといってもまだまだ子供だ。

山賊に目を付けられたらきっと酷い目に遭うだろう。

私はベッドで寝息を立てているスノウに目をやった。

彼女に一人で生きていけるだけの術を教えよう。

私のこのスキルがあれば、彼女もきっと生き抜いていける。















197年 暁星の月 9日

今日はラビの14歳の誕生日だ。
妻と一緒に娘の誕生日を祝うことが出来なくて残念だ。

しかし、私にはスノウに対する責任がある。
彼女がこんな目に遭ってしまったのも全て叔父上、いやエッテン家のせいなのだから。

私は今日、スノウに”最初の儀式”をさせた。
先日捕らえた山賊の一人をイスに縛り、スノウに短刀を渡した。

彼女はそれを受け取ると、躊躇なく男の首筋に突き刺した。
噴出した男の血飛沫が彼女の褐色の肌を赤く染めていく。

事切れた男を見てスノウの目に輝きが戻ったことに私は気づいた。

あぁ、この子も私と同じだ。

だから叔父上も生かしておいたのだろう。

エッテン家の者なら気づくはずだ。

彼女もまた血に飢えた化け物であるということに。














197年 南中の月 17日

この半年間。私はスノウに生き残る術を教えてきた。
彼女も私のことを「せんせい」と呼び慕ってくれている。

まるで私にもう一人娘が出来たかのようだ。

スノウも以前に比べて話をしてくれるようになってきた。
こうして彼女と二人で暮らすのも存外悪くないように思える。
でも、もうそれも終わりにしなければ。

明日、スノウにそのことを伝えよう。
彼女はもう一人で生きていけるはずだ。



私は…酷い人間だな。















197年 南中の月 20日

屋敷に向かう馬車の中でこれを書いている。
スノウはこれからもあの廃屋で暮らすようだ。

彼女ならあの場所で生きていくことも可能だろう。

…私は身勝手な人間だ。

愛する家族の為に、他の全てを犠牲にしてしまった。
スノウを助けたのもエッテン家を滅ぼした罪の意識からだったのだろうか。

または…心のどこかで自分の後継者を育てることを無意識に望んでいたのかもしれない。

どちらにせよ、これで全て終わったんだ。

早く家族に会いたい。















197年 収穫の月 4日

1年ぶりに我が家に帰ってきた。
私の帰りを手紙で知った妻とラビは、豪勢な夕食を用意して待ってくれていた。

久しぶりの家族での食事。

こんなに幸せなことはない。















198年 蒔種の月 11日

数ヶ月前。
配達人が1枚の封筒を持ってきた。
差出人の無いその封筒を開けると中に手紙が入っていた。

なんとその手紙はスノウからのものだった。
彼女に屋敷の場所は話していなかったはずなのだが…。

手紙の内容は以下のようなものだった。

”せんせいへ。
 私は元気にやっています。
 またせんせいに会いたいです。
            スノウ”

手紙の裏には彼女が現在住んでいるであろう場所が記されていた。

私は、彼女の為に手紙を書いた。
彼女の思いを無碍にしたくは無かったからだ。


それから、スノウとは何度も手紙のやり取りをしている。
彼女が無事に暮らしていると分かって私も安心した。















201年 収穫の月 1日

今日帝国から手紙が届いた。
スカイリムの首都であるソリチュードの首長エリシフが私を呼んでいるらしい。

私はそのことを妻とラビに伝えた。
するとラビが「私も一緒に行きたい!」と言い出した。

遊びではないことを伝えても全く引き下がらず、とうとう私が根負けした。

ラビは楽しそうに自室へと走っていった。
おそらく旅に持っていく荷物を準備しているんだろう。

私がため息をついていると、妻が心配そうに近づいてきた。

「大丈夫。これが最後の仕事だ。」

私はシャルを安心させるように言った。

「気をつけてね、あなた。」

私は頷くと、妻のことを優しく抱きしめた。

















201年 降霜の月 15日

今、私達の馬車はスカイリムとシロディールの国境沿いにいる。
どうやら近くで帝国軍と反乱軍(ストームクロークだったか?)の衝突があったようで、しばらくの間立ち往生をしている。

隣ではラビが小さな寝息をたてていた。
きっと大好きなクヴァッチの英雄の夢でも見ているんだろう。

ラビが暗殺者ではなく、英雄に興味を持ってくれて良かった。
妻の教育もあって、ラビは心の綺麗な女性に育ってくれたようだ。

この任務が終わったら、家族3人で静かに暮らそう。

私はもう十分過ぎるほど帝国に尽くした。
これからの余生は愛する家族と共に過ごしたい。

幸せそうに眠るラビの寝顔を見て、私は心からそう思った。








Fin

Comment 2

Wed
2016.02.10
01:38

坂田 #-

URL

パパ・・・せんせい・・・あっ・・・(察し

娘さんは僕が幸せにするので安心してください(ニッコリ

Edit | Reply | 
Wed
2016.02.10
18:29

ミースケ #-

URL

>>坂田くん

あれ?坂田君の後ろに両手剣を担いだ金髪のノルドが…。

Edit | Reply | 

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